存在と所有

2790×4510×466
木材、シャッター、ガラス、蛍光灯、エアコン
2021

 ある少年は原っぱで見つけた白詰草を摘みとり、誇らしげに母親へプレゼントした。受け取った母親はとても喜び、押し花にして大切に本に挟んでいた。

 これは私の実体験であり、ある少年とは5歳の頃の私である。当時の感覚を思い出すと、私は自然をあたかも自身の一部のように振る舞っていたように思える。他者との関わりのなかで自然は常に私の側にあった。果てしなく続く地平から自身の身体を介して切り取られた景色は、私のものであると強く思わせると同時に、掬い上げた途端に指の隙間から抜け落ちていく捉えようのない危うさを同時に孕んでいる。作品をつくること、発表すること、これらの表現と伝達について考えるとき母へ手渡した白詰草を思い出すのである。

 ある彫刻家は、川で拾った石を展示空間に配置し自身の彫刻作品だという。

 ある画家は、購入したキャンバスに購入した絵具を定着させ自身の絵画作品だという。

 物質は世界を移動する。その過程で本質は変化し、実存も変化していく。私はその時々の場との関わりのなかで、これまで見えなかった景色をただ一緒に見て欲しいだけなのかもしれない。

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